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ハイブリットな働き方1 「技術者×本屋」〈後編〉

前編に続き、スマートフォンアプリ開発やインスタレーション制作の技術者として活躍する傍ら、「YUYBOOKS」を営む小野友資さんにお話を伺う。後編はYUYBOOKSの開店から、フリーランスとなった今後のことについて。

「場所が欲しい」からYUYBOOKSを開店

震災を機に「個人として仕事を依頼されるポジションを築きたい」という気持ちを持った小野さん。まずは、物件を探し始め、翌年には本屋作りに関する知識ゼロからの独学によりYUYBOOKSをオープン。定石にこだわらない手法で揃えられたラインナップは以前からアートや映像が好きだった小野さんのセンスが遺憾なく発揮された。それに加えてデジタルの知識を活かした発信力により、オープン間もなく話題の本屋となる。

いろいろデザインの中にあるYUYBOOKSの棚
いろいろデザインの中にあるYUYBOOKSの棚(撮影: 小野さん)

小野:しばらく物件を探した後、たまたま、安く貸してくれるところが見つかって、じゃあ本屋やろうって決めてスタートしたのが2012年ですね(その後、現在のiroiroへ移転)。
その時、本屋のやり方は何にも知らなかったんですけど、本が好きで家に本は山ほどあったんで「これを売ろう」と思って。 Webの技術を学ぶ時もそうだったんですけど、本屋のことも全部独学。色んな書籍を読みあさったり、古物商とったり、自分なりにやっていきました。新刊書店のやり方も、何も分からんかったから出版社に直接連絡しては、あれこれ聞いて。誰かに教えてもらうって限界ありますしね。自我に目覚めた頃から、独学で進んできました。今ではいわゆる本屋のやり方も知りましたけど、やっぱり独特なんですよね。その独特なルールを僕は全く知らなかったから、自分が一番効率良いと思うやり方でやってきたんです。逆にそれがYUYBOOKSの売りになったのかもしれません。

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「効率が良い」「効率が悪い」と口にする時の小野さんの表情は大変クールである。本屋では必須とされるFAXと固定電話もなし。全てのやり取りをメールと携帯電話で完結させ、ショップ・イン・ショップ方式で、週末は本を並べに店舗に足を運ぶ一方、平日会社にいる時でも本を販売できる体制をとるなど、二足のわらじの本屋経営を実現させるために様々な手法を編み出した。出版取次からの配本は利用せず、本を制作しているアーティストやイラストレーターを自分で調べ、興味を持った個人や出版社に直接連絡し、取り扱いを申し込んで行ったという。

小野:自分で取り扱いを申し込んでみたら、相手は必ず「是非」となる。断れたことはないんです。手間はかかるんですが、取次さんを通さないやり方でもできるんだと確信しました。
とはいえ実は最近、縁あって取次さんと契約しました。取次さんといっしょにできることでまだまだ面白いことがたくさんあり。今後は新たな展開も考えています。
あと、これまで仕事の経験が生かされたことといえば…SNSの使い方ですかね、笑。あとドメインのyuy.jpって、こういうのはデジタルの知識がないとあんまり取らへんやろうなとか。

この行動力と、前例にこだわらず独学で道を切り開いていく姿勢がクリエイターの条件なのだろう。少し意外だったのは「本屋じゃなくても、なんでも良かった」と語っていたこと。それより場所があるということが大事、場所を作ってお客さんと向き合える商いをしたいという想いは、長くデジタルなものづくりをして感じていた相手の顔が見えない寂しさも影響しているという。小野さんにとって本屋は、出会いや繋がりを生む装置であるようだ。

小野:場所があると「あっこに行けば誰かいる」ってことなんで、目指してきてもらえるし。わざわざどっかに行くことも殆どなくなって。今は海外からも含め、本の作り手の方からコンタクトを取ってくれるようになっているし。楽になりました。
人と繋がれて、商品を売ったら「ありがとう」って言ってくれて喜んでもらえるっていうのはね、やっぱりデジタルと違うなーと思います。デジタルの仕事自体はほんとにどこでもできるんで。
本屋にしたのは…単純に頭良さそうに見えません?本屋って。冗談ですけど、笑。本って嫌いな人あんまいないから、誰とでも共通言語になるのはたのしいですね。

この春、独立。これからの歩き方。

YUYBOOKSのオープンから3年目、一貫して専業の本屋になる気は無いという小野さん。会社員と本屋、充実した日々を送る中で独立を視野に入れたのは辞めるほんの一年前からだった。

小野:会社の仕事も楽しいし、辞めようって気はさらさらなくて。副業というのが良いスタンスだって思ってたんですけど、独立1年前ぐらいから、やりたいことが会社員でいてたら難しくなってきたっていうのをちょっと感じ出して、辞めようかなと思って。最初社長に相談して、「いろんなことがやりたいです」って話してたら、社長も「そんなんうちでやったらええやん」ってすごい気前の良い社長で。それて、1個面白いサービスを考えて、3人ぐらいでチーム作って「よし、これみんなでやろう」って動いてたんですけど、日々追われるクライアントワークで、打ち合わせなんかも頓挫しがちで。やっぱり後回しになっていって…なかなか上手いことできなかったんですよね。それは、本当に僕の力不足で。

そしてこの春からフリーランスになり、今後はこれまで続けてきたアプリ開発やインスタレーション制作、本屋としての仕事も続ける一方、以前から移住したいと思っていたというドイツ・ベルリンをはじめ、海外も視野に入れながら、積極的に新しいジャンルの仕事に取り組んでいるということである。

小野:独立してから有り難いことにぽんぽん面白い話が入ってきていて…どれもリリースがまだ先なので、いまここで具体的には言えないんですが。内容はデジタルなことに限りませんし、本屋をやってたから繋がった話が多いです。
開発者としてずっと働いて、時代的な限界を感じていて。さっき少し話したように、Flashがとーんってなくなることがあるし、リアルに3〜5年後にはサービスの台頭によっていくつかの技術もなくなると踏んでいたりします。デザインにしてもテンプレートが横行したらそんなにいらなくなるかもしれない。だから、もっと柔軟な考え方で、いろんなことを経験しといた方がいいなと思って、楽しんで取り組んでます。

 仕事場の棚にも趣味で集めたという様々なオブジェが並んでいた
仕事場の棚にも趣味で集めたという様々なオブジェが並んでいた

現在普及しているSNSも、いつ廃れるかわからない。自分が今の親くらいの年齢になった時、デジタル通ではあっても、もっと下の世代から出てくる新しいもののことは、よくわからないという時代になっているだろうが、「でも昔からそういうもんですよね」と小野さんは笑う。最後にデジタル系クリエイターとして小野さん流の歩き方を伺った。

小野:僕の場合は、1本で勝負するのはやめようと思ったことが大きいかなぁ。これがなくなったら完全に普通の人っていう状況は不安。じゃあ、1個潰れても、あと9個残っていればいいだけの話なんで。それができるに越したことないと思ってます。(非常勤講師をしている京都精華大学で)学生に「趣味や特技なんかある?」って聞いても、大抵「自慢できるようなものはない」って返事なんですけど、「特技は仕事になる」ってことを伝えたいと思ってます。
もちろん、みんなにお勧めするわけではなくて、世の中には何かに物凄い特化してる人とかいるので、それは特化しといてほしいというか、むしろ尊敬します。僕にはそれができなかったっていうのもあるんで。

「特技は仕事になる」。映像、アート、本と、趣味や特技を次々と仕事に繋げてきた小野さんらしい、実感のこもった言葉だ。1本で勝負しないということは、業種や国境なども越えた広い視野を持ちながら、勝負できる技術を増やす独学力が必要。なかなか厳しそうだが、多様であることが武器になるという未来は楽しそうでもある。CLASSROOM Magでは今後もハイブリッドに楽しく働く人に注目していきたい。

小野友資 Yusuke Ono
デザイナー / 京都精華大学非常勤講師 / YUYBOOKS代表 1980年、神戸生まれ。2007年より1-10designに参加、モーションデザイナーとしてウェブサイトからデジタルサイネージまで様々なフィールドに渡る制作に関わる。在籍中の2013年個人活動としてYUYBOOKSオープン。本をコミュニケーションツールとし、企画やデジタル作品を展開。2016年よりデジタルの活動をフリーランスへ。デジタルばりばりつかってアナログなもの集めています。
YUYBOOKS http://yuy.jp/

■ YUYBOOKS KYOTO
〒 600-8459 京都市下京区松原通油小路東入ル天神前町327-2(いろいろデザイン内)
OPEN / CLOSE 15:00-23:30  HOLIDAY : 火・水

■ YUYBOOKS AWAJISHIMA
〒656-2334 兵庫県淡路市釜口4652(NEHA内)
OPEN / CLOSE 11:00-19:00 HOLIDAY : IRREGULAR


Text&Photo:Masae YAMADA
Cooperation:Haruka MUTA

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