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Things / YCAM 2/2

イマドキのまなび場1[YCAM]<後編>

バイオ・リサーチを中心に見た前編に引き続き、山口情報芸術センター [YCAM]におけるイマドキのまなびの現場の様子を紹介。YCAMのある山口市だからこそ体験できる新しいまなびの姿が見えてきた。

キッチンはソーシャルメディア(YAMA KITCHEN)

YAMA KITCHENの様子
YAMA KITCHENの様子

フィールドワークを終え、YCAMのレストランスペースで週末に開催されている「YAMA KITCHEN」にてランチをいただく。YAMA KITCHENとは、山口市在住で食とアートに関わる活動を行っている津田多江子さんとYCAMが共同で行っているプロジェクトである。
この「キッチン」は、YCAMから市民へ向けアートやバイオの情報を発信するだけでなく、市民からも地域に伝わる知恵や食資源の情報を発信し、食を介した双方向のコミュニケーションが生まれる創発の場(=ソーシャルメディア)として機能している。
YCAMに滞在中のアーティストが「1日店長」として参加者に得意料理を振る舞う日があり、YCAMの映画プログラムと連動したシネマキッチンなど、食を介した文化発信を行うプログラムも行われている。また、今年はバイオ・リサーチと連動し、パンを実際に作って食べることで酵母の働きを学ぶワークショップがあったり、市内の農家の方が講師となって麹を作るワークショップも行われたりするそうだ。

この日のランチは「百日紅」さんのライスバーガーだった。オリジナルのジェラートも絶品だ。
この日のランチは「百日紅」さんのライスバーガーだった。オリジナルのジェラートも絶品だ。

そのほか、地産の食材を使ったおむすびやサンドイッチをDIYで作って食べるワークショップや、県内のカフェや工房が週替わりで担当するお弁当やパンの販売、地元で採れた低農薬野菜などの販売があり、山口の素材を味わうことができる。
また、YAMA KITCHENでは、利用料を払うと誰でも調理器具や共有スペースを使用することのできるシェアキッチンが一般に開放されている。1人300円というお手頃な使用料で利用でき、家族の誕生日会などさまざまに活用されているそうだ。

テクノロジーを使った新しい身体体験(スポーツハッカソン)

美味しいランチの後に見学させていただいたのは「スポーツハッカソン for Kids」。既存のスポーツにメディア・テクノロジーを加え、全くルールの違う新しいスポーツを作るという運動会が行われていた。スポーツハッカソンでは例えば、YCAMで開発しダンサーの教育のためのツールとして生まれた、モーションセンサー(=新しい身体イメージを作るためのプロジェクト)の技術などが活かされているという。

モーションセンサーを使ったダンサーによるパフォーマンスの様子
モーションセンサーを使ったダンサーによるパフォーマンスの様子(c)山口情報芸術センター [YCAM]
初めて目にするデジタルツールを前に、新しいゲームを考える子どもたち。
初めて目にするツールを前に、新しいゲームを考える子どもたち。

テクノロジーが介在することで、競技者の中にこれまでと違った身体イメージが生まれれば、スポーツのルールや形式が変わって新しいアイデアがどんどん生まれてくるのではないか、ということで始まった取り組みだそう。
スポーツを介してYCAMインターラボに蓄積された技術を体験するという試みであると同時に、スポーツは完成され固定化されたものではなく自分たちで作れるものなのだと、思考が変わるきっかけにしたいということだ。

実際の競技の様子。こちらは「Yトリシャ」と名付けられた棒。トリシャ・ブラウン・ダンスカンパニーに由来しているという。
実際の競技の様子。こちらは「Yトリシャ」と名付けられた棒。トリシャ・ブラウン・ダンスカンパニーに由来しているという。(c)山口情報芸術センター [YCAM]

現在、この取り組みを山口市の学習指導要領に入れる働きかけがなされているそう。近い将来、山口市の小学生たちが考案した全く新しいスポーツが生まれるかもしれない。

自治の精神が芽生える自由な公園(コロガルガーデン)

コロガルガーデンの様子
コロガルガーデンの様子(c)山口情報芸術センター [YCAM]

館内に特設された巨大なメディア公園、「コロガルガーデン」も大変な賑わいを見せていた。2012年に始まった「コロガル公園」シリーズの最新作で、マイクやスピーカー、センサーなどが埋め込まれ、身体を使った遊びと同様に、メディアを使った遊びが同時に楽しめる仮設の公園だ。入場無料で、約3ヶ月の会期中に足繁く通う子供もたくさんいるそうだ。
ここには決まった遊び方はなく、自分たちで遊び方を作っていく。最近の公園で、ボール遊びが禁止されるなどルールがガチガチに固まってしまっていることに対する疑問から生まれたという、子供たちが自分たちで自治して、自分たちで変えていける公園だ。

コロガルガーデンの様子
コロガルガーデンの様子

会期中に二度開催される「子どもあそびばミーティング」は、YCAMインターラボの技術スタッフと子供たちとのガチンコ会議。子供たちが「こういう公園がほしい」とプレゼンして、それにスタッフたちジャッジメントを加える。毎回激しいディスカッションの末、採用されたアイデアを実際にスタッフが作り込んでいくのだという。
「公共空間は、作られたものを使っていくのではなくて自分たちで作っていくもの」という自治の精神を育む機会になっているのだ。子供たちはだんだん「あそこは自分の場所だ」と考えるようになり、2013年の「コロガルパビリオン」が終了する際は、とり壊しに反対するに子供たちによる署名運動が起こり、翌年、期間限定での再開を勝ち取ったという経緯もあるそうだ。YCAMから頼もしい子供たちが育っている。

おもねるのでなく、引き上げる。

相手におもねって難しいことを単純化してしまうのでなく、入り口を身近にして、体験を通して楽しみ方を伝えるのがYCAMの教育普及だ。
例えばメディアアート作品を鑑賞するために行われた「音を聴く」ためのワークショップ、あるいは、酵母のサンプル採取や培養の体験、更に食べることで発酵を体感するワークショップなど。どれも手間と時間がかかる取り組みだが、「言葉で説明してしまうと知識のコピーで終わってしまう。でも、体験してもらうとみんなそれぞれの考え方、読み解き方ができる。それは技術を身につけるということだから、その作品に限らず、別の作品を鑑賞するときにも、じゃあ、こういうアプローチで鑑賞してみようという風に経験値として生きてくる。だから、分かりやすいものを提供することだけが地方の文化施設の役割では決してないということを、みんな強く意識しています。」とYCAMアソシエイトキュレーターの井高さん。

〈音を聴く〉ワークショップ「walking around surround」の様子
〈音を聴く〉ワークショップ「walking around surround」の様子(c)山口情報芸術センター [YCAM]

今回実際に訪問してみるまではメディアアートのイメージから、大人向けの場所だと思っていた。しかしオープンから13年の時を経て、YCAMに通う電子工作好きの子やムービーを自作する小学生YouTuber、ワークショップでデザインツールの使い方を学んで署名活動をする子など、新たなメディアリテラシーを身につけたYCAM KIDSたちが育ってきているのだという。
山口で子育てという選択肢もありかもしれない。

取材協力:山口情報芸術センター [YCAM]
〒753-0075 山口県山口市中園町7-7
山口情報芸術センター [YCAM]
www.ycam.jp

Text&Photo:Masae YAMADA

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