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イマドキのまなび場1[YCAM]<前編>

山口情報芸術センター [YCAM]は、ライゾマティクスなどメディアアートシーンを牽引するアーティストらが最新テクノロジーを駆使した作品を制作・発表しているアートセンターだ。山並みのようにも海の波のようにも見えるメタリックな建築や、本州の端っこ山口県にあるというその場所には、得体の知れない秘密基地のような存在の遠さを感じていた。
私はメディアアートも現代アートもわからない。しかし最近、「アートもサッカーと同じで、ルールがわかれば数十倍面白くなる」という話を聞き、それなら俄然ルールを知りたいという気になったところ、以前トークイベントCLASSROOM#05に登壇いただいた津田和俊さん(当時は大阪大学助教)が、この春から研究員として「YCAMバイオ・リサーチ」というプロジェクトに参加しているという情報を耳にした。渡りに船とばかりに、メディアリテラシーを高めることに重点を置いた教育普及が行われているというYCAMを訪れてみることにした。

(c)山口情報芸術センター [YCAM]
(c)山口情報芸術センター [YCAM]

山口県といえば、ふぐで有名な下関や、美しい城下町の萩といった観光地がまず思い浮かぶ。YCAMは一体どんな場所にあるのだろう? 到着してすぐ、バイオ・リサーチのみなさんのフィールドワークに同行をしながら、周辺を案内していただいた。
四方を山に囲まれた山口盆地。県庁所在地である山口市の中心部とはいえ、北へ徒歩10分ほどの場所に熊野神社のある権現山があり、さらに西に向かって10分ほど歩けば湯田温泉に辿り着く。足湯に浸かって周りを見渡せば、目に入るのは由緒のありそうな旅館や老舗らしい酒屋。歴史深く自然が豊かで、スーパーや商店街はもちろん、山口大学という高等教育施設も近くあり、暮らしやすそうな人口約20万人の地方都市だ。そんな中で、銀色に光るYCAM。どことなく水戸芸術館を思い出すと思ったら、同じ磯崎新氏の設計だった。

微生物から地域資源を見る(YCAMバイオ・リサーチ)

今みなさんが採取しているのは、酵母だ。酵母は大気中など様々なところに存在しているが、糖を餌にしてエタノールと二酸化炭素を生成するため、花の蜜などには生息している可能性が高いという。この日はYCAMの前に広がる中央公園から湯田温泉街などを周りながら、約1時間半で花や池の水など13種類のサンプルを採取した。
集めたサンプルはYCAM館内のバイオラボに持ち帰って培地(=酵母の家とごはんがセットになったようなもの)に移し、酵母の様子を観察する。

ちなみに写真に写っている3名ともバイオの専門家ではなく、伊藤さんは音響エンジニア/プログラマー、高原さんは照明デザイナー、津田さんは工学博士とバックグラウンドは様々。 YCAMではやったことのないことでも、分野を超えて学びながら取り組んでいるとのこと。パンク精神を感じる。
ちなみに写真に写っている3名ともバイオの専門家ではなく、
伊藤さんは音響エンジニア/プログラマー、高原さんは照明デザイナー、津田さんは工学博士とバックグラウンドは様々。
YCAMではやったことのないことでも、分野を超えて学びながら取り組んでいるとのこと。パンク精神を感じる。

今年は小豆島や韓国・ソウルでも同じくサンプル採取を行っていて、その酵母のDNAを読み解きながら、その土地土地の酵母を調べているところだそうだ。酵母や麹のような菌類・微生物は土壌を豊かにし、農業や食文化の視点から見ても、地域資源と深く関わっている。
「微生物から地域間の共通点や違いが見えてくると凄く面白いですよね。」と津田さん。

採取したサンプルを確認する津田さん
採取したサンプルを確認する津田さん

これまでバイオの研究を行う設備はとても高額で、専門の機関でしか研究できなかったものが、近年急激にコストが下がり、一般の施設でも設備をそろえることが可能になってきているそうだ。とはいえ個人宅で気軽に設備を揃えられるというわけではなく、現在は地域に分散しているFab Labのようなかたちで世界のあちこちに広まっていく気運が生まれてきているという。そんな中、国内のアートセンターではいち早く館内にバイオラボを設置して立ち上げられたのがYCAMバイオ・リサーチということだ。
開発した研究成果はインターネットでシェアできるので、このようなバイオラボが様々な場所にできれば、どこでも同じように研究をすることができるようになるという。「例えば、世界中の人々が自分たちの地域にいる微生物を採取し、共通のプラットフォームに情報を集めて、その生態や暮らしへの応用の可能性を意見交換するようになったら面白いと思います」。
今まで漫然と様々な食べ物を口にしてきているが、個人でもその出自を調べられるようになれば食の世界は大きく変化しそうである。

館内にあるバイオラボ(c)山口情報芸術センター [YCAM]
館内にあるバイオラボ(c)山口情報芸術センター [YCAM]

このように、YCAMではアートに限定せず、DNAもメディアと捉え、メディアリテラシーを高める活動を行っている。このほか、同時にいくつものプロジェクトが進行しており、取材を行った2日間にもYAMA KITCHEN、スポーツハッカソン、コロガルガーデンも見学することができたので、後編で紹介したい。

理想的なものづくり環境

少し話しは逸れるが、取材の日は偶然にも、1週間後に控えた「YCAMバイオ・リサーチ・オープンデイVol.1」で使う展示台を作るため、大阪から「吉行良平と仕事」のデザイナーである吉行さんと、「アトリエカフエ」の安川さん・冨吉さんという2チームがYCAM入りしたタイミングと重なり、作業の様子を見せていただくことができた。

作業場の様子。写真右はデザイナーの吉行さん。
作業場の様子。写真右はデザイナーの吉行さん

工作機械が充実したYCAMの作業場で、朝から展示台作りがはじまった。
ランチタイムには「まだ何も見えていない」とおっしゃっていた吉行さんだが、夕方には微生物を意識したという丸みが可愛いプロトタイプが姿を現した。

写真右は出来たばかりのプロトタイプ
写真右は出来たばかりのプロトタイプ

早速それを実際の展示会場に移動させ、関係者が集合して置き方や使い方を検討。更にデザイナー自ら酵母のサンプルを培地に移す一連の作業を体験し、展示台の用途を具体的に把握する。

展示会場で意見を交わす関係者のみなさん。
展示会場で意見を交わすみなさん
写真左は酵母を培地に移す作業を体験する吉行さん。
写真左は酵母を培地に移す作業を体験する吉行さん

作る場所と使う場所が近くにあって、作り手と使い手が意見を出し合いながら作業はスピーディーに進んで行く。
最近はインターネットのお陰で、どこにいてもできる仕事が増えて便利になった。しかしその反面、相手が見えないゆえに生じる誤解や面倒臭さも増えていると思う。そんな中、ものづくりの理想形を目の当たりにしたようで、眩しかった。

「YCAMバイオ・リサーチ・オープンデイVol.1」当日の様子
「YCAMバイオ・リサーチ・オープンデイVol.1」当日の様子

取材協力:山口情報芸術センター [YCAM]
〒753-0075 山口県山口市中園町7-7
山口情報芸術センター [YCAM]
www.ycam.jp

Text&Photo:Masae YAMADA

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