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ヘアドネーション2〈実践編〉

ヘアドネーションの活動について詳しくお聞きした JHDAC(ジャーダック)の取材に続き、今回は実践編。寄付するために、自分の髪をカットしてもらう。

ヘアドネーション〈うわのそら編〉0

いざ美容室へ

今回はJHDACウェブサイトで賛同美容室として紹介されていた、京都・北大路の「美容室うわのそら」にカットをお願いした。美容師の髪屋奈津子さんがひとりで経営するプライベートサロンだ。ガラスブロックを通して届く柔らかな光で満たされた店内に、控えめな音量で流れるBGMが心地良く、大通りに面していることを一瞬にして忘れさせられた。
はじめに待合席でヘアドネーションの申込書類に必要事項を記入し、鏡の前に案内されながらお客さんからの反響について聞いてみると、「最近は寄付を希望される方が多いんですよ」とのこと。この日、私の前に予約をしていた方もドナーだったそうだ。
最初は知人の話でヘアドネーションのことを知ったという奈津子さん。機会があれば申し込みたいと思っていたところにやってきたのが、大学時代の4年間、一度も切っていなかった髪をショートカットにしたいというお客さんだった。奈津子さんがヘアドネーションのことを説明すると、喜んで承諾してくれたのだという。
「寄付するために伸ばすのは大変だけど、長い髪をばっさりカットする機会に自然な流れでできるのはすごく良い。捨てられてしまう髪がもったいないと以前から思っていたので、JHDACさんがこういう活動を始めてくださって本当にありがたいです」。

ヘアドネーション〈うわのそら編〉1

新しい自分に出会う、ヘアドネーションのお楽しみ

話をしながらも、奈津子さんの手はテキパキと動いている。髪をいくつかの束に分けてゴムで結んだら、いよいよ断髪式。緊張が走り、思わず居住まいを正してしまう。
ざくざくざくざくざく。
力強い音を響かせながら、少しずつ切り進んでいくハサミ。「新しい何かが始まりますよ」という奈津子さんの言葉を証明するかのように、首筋をさわやかな風が撫でる。
目の前に置かれた髪は、一瞬前まで自分の一部だったにも関わらず、すでにひとつの物体になっていた。計量してもらうと74g。これだけの重りを頭皮から下げていたのだと実感させられる。奈津子さんによると、頭部が軽くなることで身体のバランスが変わるため、カットの直後は少し注意が必要だそう。
髪を束ね、切り落とし、その重さと手触りを感じるという一連の作業は、これまでの自分と決別するための神聖な儀式のようだ。この面白さも、ヘアドネーションに参加する醍醐味だろう。

ヘアドネーション〈うわのそら編〉2

髪に蓄積する色々なもの

「美容室うわのそら」でヘアドネーションを希望するお客さんの半分ほどは、髪を切るタイミングを失って伸びっぱなしになっていたという人らしい。自分だけではないことにやや安心するが、奈津子さんによると、あまり長い間伸ばしっぱなしにしておくのは良くないそうだ。
その理由の1つは、髪に感情的なものが溜まっていくため。これは長年美容師をしてきて分かったことなのだという。長く髪を伸ばしたことのある人は、経験として理解できるのではないだろうか。市松人形の髪が伸びるというお馴染みのホラーがあるように、髪に怨念が宿るという考え方は昔からあるものだ。
もう1つの理由は、髪には日常生活で摂取した金属系の毒素を排泄する役目があるため。髪を切ってすっきりするのは、ただ質量が減るというだけではなく、物理的に毒素を落としているからでもあるらしい。
「髪には色んなものが溜まっていくから、長く伸ばすにしても3〜4ヶ月に1回は整えた方がいいと思いますよ」とのことだった。

ヘアドネーション〈うわのそら編〉3

髪型のデザインから暮らしのデザインへ

「ヘアドネーションって、病気で髪をなくしてしまった人に自分の髪をギフトするっていう、愛の作業ですよね。(美容師として)ほかにも、身近にできることがあると思う」という奈津子さん。「見た目だけでなく、生活全てをデザインすることにすごく興味がある。人間だけが楽しんで地球に負担をかけるという生活は、そろそろ卒業したいですね」。
そうした思いを実現するために、「美容室うわのそら」では化学物質の使用を避けている。8年前から髪を染めるカラー剤は辞め、草木染めのヘナ(様々な草木の粉末を調合して髪を染める施術)へ切り替えた。パーマ液も、一般の美容室で使っているダメージが激しいアルカリ性のものは使わず、酸性で安全性の高いものを選んでいるそうだ。
「10年前はケミカルを全部やめるとお店が成り立たないくらい、理解を得るのが難しかったの。でもようやく時代が変わって、ノンケミカルっていうことをお店のホームページに載せたら、求めている人が探してきてくれるようになった」。
「自然派にこだわっているけど、髪の造形的なデザインをするのもすごく好きなんです。髪型を変えることで、その人の人生が前に進みやすくなったりもするから。デザインのパワーは残しつつ、どこまで地球に寄り添えるのか。時代と共に追及していきたい」。

ヘアドネーション〈うわのそら編〉4

お話を伺っているうちに、ショートボブが完成した。思わず頭を振りたくなるほどに軽く、立ち上がってみると3cmくらい身長が伸びたかのよう。お会計と合わせて、少額だがJHDACへの寄付金もお願いする。
「ヘアドネーションをされたお客さまは、自分が大変身したという満足感と、人に髪をギフトしたという心の満足感があるようですよ」という奈津子さんの言葉に大きく頷きつつ、満ち足りた気分でお店を後にした。

取材協力:美容室うわのそら
〒603-8132 京都市北区小山下内河原町109-1
uwanosorahair.net

美容室うわのそら

Text:Haruka MUTA
Photo:Masae YAMADA

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