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ヘアドネーション1〈JHDAC編〉

髪の毛が伸びに伸びて、とうとう腰まで届きそうになってきた。ロングヘアにこだわりがあるわけでも、願掛けをしていたわけでもなく、ただ美容室に行くのをさぼり続けていただけである。
しかし、春風が吹き始め、軽やかな服装で町を行き交う女性たちの姿を見ていると、いい加減に重たい腰を上げようという気になってきた。せっかくだから、ヘアドネーションに参加しようと思う。

子どもたちのためにできる髪の寄付

ヘアドネーションとは、髪の毛の寄付である。
NPO法人JAPAN HAIR DONATION & CHARITY(以下、JHDAC)が行っている活動で、寄付した髪はウィッグに加工され、病気などの理由で髪に悩む子どもたちに無償で提供される。
会う人会う人に「長過ぎじゃない?そろそろ切ったら?」と言われ続け、自分でも邪魔だと思っていた髪の毛が誰かの役に立つなんて…一石二鳥とはこのことだ。
実際にカットする前に、JHDACでお話を伺うことにした。

この建物の2階が事務局となっている
この建物の2階が事務局となっている

美容室の2階にある小さなオフィス

事務局は大阪・梅田にある「KNOW HAIR STUDIO」という美容室の一室。予想していたよりも小さなオフィスだった。美容室の店長である渡辺さんが事務局長を兼任しており、今年3月に専任スタッフ1名を採用するまでの6年間、ほとんど1人で活動を行ってきたのだという。髪の仕分けや、問い合わせの返答など、この小さな事務所で日々細かな作業が行なわれている。オフィスには長さによって分類された大量の髪が保管されており、取材の最中にも日本全国からどんどん新たな髪の毛が届いていた。

毎日、日本全国から寄せられる髪の寄付
毎日、日本全国から寄せられる髪の寄付

美容師として自然体でできる活動を

JHDACが発足したのは2009年。髪の寄付を募る、日本で唯一の団体だ。活動を始めるきっかけはなんだったのだろうか。
渡辺さんは、「JHDACを始める1年前にヘアサロンをオープンしたんですが、そのコンセプトのひとつとして社会に貢献をしたいということがありました。『髪』を扱ってただお金儲けをするだけではなく、社会に何か還元できないかと考えた時、ヘアドネーションは、美容師である自分にとって一番自然にできる活動だったんです」と語る。
JHDACで製作しているウィッグは、子どもたちひとりひとりに合わせて作るオーダーメイド。ウィッグの土台を作るためにドナーの頭の型を取る、完成したウィッグをドナーが実際に被った状態で仕上げのカットをするなど、製作の工程には既製品のウィッグよりも多くの手間がかけられている。
「KNOW HAIR STUDIO」でウィッグの合同提供会が行われることもあるが、提供を希望する子どもが遠方に住んでいる場合には、渡辺さんが現地に足を運ぶこともあるのだという。そのため、製作費に加えて交通費もかさんでおり、活動を続けていくためには髪だけでなく金銭の寄付も不可欠なのだそうだ。

子ども一人ひとりの頭のサイズを測り、型を作っている
子ども一人ひとりの頭のサイズを測り、型を作っている

環境に対するメリットとデメリット

髪のことで悩む子どもたちに喜んでもらえるということに加え、ヘアドネーションにはもうひとつ大きなメリットがある。ゴミを減らせるということだ。
毛髪は非常に安定したケラチンタンパク質で構成されており、土に返らない。大量に集まれば、産業廃棄物として処理しなければならないのである。
「美容師になって約30年、相当な量の髪を切って捨ててきました。もちろんそれが仕事なんですが、この活動はこれまで仕事をさせてくれた髪への恩返しでもあります」と、渡辺さんは語る。
しかし、環境への影響でいうと問題点もある。ひとつのウィッグを作るのに必要な髪は、20〜30人分。色や艶は人によって異なるため、まずは統一するために加工しなければならないが、その際に使われる強酸性の薬剤は、日本での使用が許可されていない。そのため、中国の工場で加工されているのだという。だからといって一概に環境破壊になるというわけではないが、国内でも使える自然に優しい薬剤が開発されれば、それに越したことはないだろう。

お話を伺ったJHDAC事務局長の渡辺貴一さん
お話を伺ったJHDAC事務局長の渡辺貴一さん

気負わず、気軽に参加してほしい

ヘアドネーションの良いところは、31cm以上という長ささえクリアしていれば、年齢・性別を問わずだれでも協力できるという気軽さだ。髪が短い人は、寄付金という形で協力することもできる。
「寄付をするために長く伸ばしてきたという方もいらっしゃいますが、大切な髪ですから、寄付のために無理をして切る必要も、我慢して伸ばす必要もありません。気分転換でばっさり切るというような機会に、気軽に参加してほしいと考えています。昔切って、なんとなくもったいなくて取っておいた髪の毛も大丈夫。ヘアドネーションが珍しいことではなく、当たり前のことのようになるのが理想です。髪を通して多くの人が笑顔になれる、いい循環が生まれれば良いと思う」。
JHDACには、提供を受けた子どもたちから感謝の気持ちを綴った手紙がたくさん届いていた。自分の髪が誰かの日常に喜びをもたらしていると思うと、気負いなく寄付をしつつも、胸の奥にはあたたかい気持ちが広がることだろう。

ドネーションの際に添えられた手紙の数々
ドネーションの際に添えられた手紙の数々

ヘアドネーションへの参加方法

現在、ヘアドネーションの活動に賛同している美容室は全国に800店以上もある。髪の寄付に関心のあるお客さんが美容師さんに伝え、さらに美容師さんからJHDACに問い合わせがくるという流れで、少しずつ増えていったのだそうだ。
そうした賛同美容室を利用するのももちろん良いが、ロングヘアからショートカットにする際には思い通りのヘアスタイルにならなかったというようなトラブルが起きやすいので、まずは信頼できる行きつけの美容室に相談してみてはいかがだろうか。その際は、以下のポイントをしっかり伝えよう。

1.長さは必ず31cm以上であること。
これさえクリアしていれば、極端なダメージがない限り、カラーリングやパーマを施した髪でも寄付することができる。

2.カットするときは必ず先にゴムで束ね、その1〜2cm上からカットする。
ゴムがほどけてバラバラなるとせっかくの髪が加工できないので、しっかり結ぶように気をつけよう。ゴムの下にティッシュなどを挟む必要はない。

3.スタイリング剤などはつけず、必ず乾いた状態でカットすること。
濡れているとカビが繁殖し、最悪の場合ほかの人の髪までダメになってしまうことがある。

4.JHDACに送るときは簡易包装で。カットした髪の束を1人分ずつゴムでまとめ、申込書類(ドネーションシート)と一緒に送付する。髪をラップや新聞紙で包んだり、ビニール袋に入れたり、書類で巻いたりといった丁寧すぎる包装をすると、到着後の仕分けに余計な手間がかかってしまうので要注意。
>>髪の毛の送り方の詳細はこちら

この4点さえ守れば難しいことはない。iPadを利用している美容室も多いので、JHDACのウェブサイトを直接見せてもいいだろう。
また、JHDACでは事務所に髪の毛が到着したら、ヘアドネーションの受取確認を兼ねたお礼メールを送信している。読みづらい文字や、メールアドレスの記入不備が原因で連絡がつかないケースも少なくないそうだ。受取の確認を希望する場合はドネーションシートに連絡先を間違いなく記入しておこう。

取材協力:特定非営利活動法人Japan Hair Donation &Charity(ジャーダック・JHDAC)
〒531-0072 大阪府大阪市北区豊崎3-8-18
Japan Hair Donation & Charity(ジャーダック・JHDAC)
www.jhdac.org/

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Text:Haruka MUTA
Photo:Masae YAMADA

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