つくる人々 つくる人々

Interview2/2

山善農園・農家〈後編〉

Yamayoshi Farm / Yoshitomo Fujihisa,Kazuho Fujihisa | Farmer

岡山県の山間地域で山善農園を営む藤久夫妻へのインタビュー。新規就農したきっかけを伺った前編に続き、後編では現在彼らが取り組んでいる有機栽培のことや、農作物の販売先こと、そして少し未来のことへと、話題は広がった。

ソバージュ(放任)という方法ででミニトマトを栽培している
山善農園ではソバージュ(放任)という方法ででミニトマトを栽培している(2015年8月中旬撮影)

経営を考えた、ぼやっとしてない農業

— 農閑期はどんな仕事があるんでしょうか?

善友さん:昨年は冬にニンジンの収穫があったので、実はほぼ農閑期がなくて、雪が降っている時は外の作業ができないからその間だけ。

一穂さん:意外と事務仕事も多いです。

— 種や肥料を買うとか、機械のメンテナンスとか?

善友さん:そうですね、畑以外でもやることが次々と出てきます。種蒔きの前に土づくりがあって、土づくりの前に土壌分析をするんです。

— 土壌分析ってどんなことを調べるんですか?

レンタルしている土壌分析キット
レンタルしている土壌分析キット

善友さん:これは小祝先生が提唱されている科学的な有機農法(BLOF理論)というのに基づいているんですが、畑の土壌に含まれているミネラルなどの量を調べます。土壌分析のキットを借りて、自分で分析できるようになっています。その分析結果をもとに、カルシウムが何%足りないからカルシウムの資材をこれくらい足そう、というように施肥設計をします。
必要な成分だけを畑に入れ、反対に余計な成分は入れず、太陽の熱と微生物の力を利用しながら、しっかりと根を張れるふかふかの柔らかい土をつくって、作物を健康な状態に持っていきます。
土壌のミネラルバランスが崩れることによって野菜に病気が発生したり、虫に食べられやすくなったりするのですが、ミネラルバランスの整った土で育った野菜は虫や病気を寄せ付けない強い体になっていく、だから無農薬でも大丈夫というイメージです。従来使用されてきた化学肥料(硝酸態窒素)ではなくアミノ酸を肥料として与え、より効率よく隅々まで栄養を行き渡らせるということもやっているのですが、そうするとセルロース(細胞壁)が厚くなって、アブラムシなど虫の歯が立たないから農薬を減らせるんです。

一穂さん:経験的な勘とかではなくて、分析した数値に従って土づくりをするんです。無農薬で自然で… なんていう言葉を聞くと何となく、ぼやっとしているイメージがあると思うんですが、ちゃんと分析して必要な成分を入れて、良い作物を収穫することを目指しています。家庭菜園ではなく、農家として経営し家族を養っていくための収量を確保するというのは本当にすごい量が必要なので、それを実現するための農法ですよね。

生育中のトマト。茎がしっかりしている。
生育中のトマト。茎がしっかりしている。

— なるほど、かなり論理的なんですね。面白い。

善友さん:僕は有機栽培をしてますけど、そこまで無農薬にこだわっているわけではないんです。使わないでできるならその方が良いかなぁというくらいで、完全な農薬否定という気持ちはないです。

一穂さん:そうですね、無農薬=良いというのは違うんじゃないかなぁと思います。いくら無農薬のお野菜と言っても、何の栄養も無いとしたら良い野菜といえるのか疑問です。たとえ農薬が少し使われていても栄養がいっぱいある土で育った野菜の方が良いんじゃないでしょうか。

善友さん:農薬を使っていても、こだわって良い野菜を作っている人もたくさんいます。従来からある化学農薬の他に、最近は生物農薬というのもありますし、選択肢は増えています。完全無農薬にこだわるあまり「今年は全滅しました、無収入です」みたいなことになるくらいなら、農薬を使ったほうが良いです。生活を成り立たせないと、次の作付けもできない、肥料も種も買えないわけですからね。

一穂さん:技術が高くないと無農薬で栽培は難しいと思います。だから、はじめはリスクを減らすために農薬を使うけど、技術を高めながらだんだん農薬ゼロに近づける、ということができればと良いのではないかと思います。

つくることに全力を注ぎたい

IMG_6464

— 農家全体が減っていく中で、継続的・安定的に良い野菜を出荷できるというのは、とても価値のあることですね。ちなみに今取り組んでいる作物は?

善友さん:ぶどうとミニトマトが軸で、あとはニンジン、ベビーリーフなど数品種を試しながら栽培しています。ぶどうは果樹をやってみたいと思っていた時にちょうど、ぶどう園を借りることができたということがあって、ミニトマトについては作ってみたかったというのもあるし、JAに出荷できるというので選びました。ふたつとも販売先に困らないというのが大きいですね。
それ以外の作物は有機栽培のグループを通じて販売業者に卸しているのと、市内にある道の駅や大阪府高槻市の「まにわ市場」のような直売所でも販売しています。直売所には山善農園のシールも貼って出します。手数料はかかりますが、自分で値段をつけられますし、出荷時期をずらして売れやすくするなど、工夫する余地があるのも魅力です。

一穂さん:直売所は売れ残った分は自分たちのロスになりますが、JAは全量買い取ってくれるのでロスがでないという、それぞれの良さがあります。

ミニトマト以外にもさまざまな野菜を試作している、写真は熟すとチョコレート色になるパプリカ。
ミニトマト以外にもさまざまな野菜を試作している、写真は熟すとチョコレート色になるパプリカ。

— 売り先があるっていうことが重要ですね。

善友さん:そうそう。良いものができても売り先がなかったら捨てるしかないですからね。

— 農家さんが通販でお野菜の定期便なんかをされているのも見かけますが、そういうのはどうですか?

善友さん:ボックスセットを販売されている農家さんも多いようですね。直販は中間手数料を引かれることはないけど、やはりその分手間がかかりますよね。毎回数種類をセットにして送るためには多品目を作らないといけませんし、僕は手が回らなくてやっていませんが。

一穂さん:今も近隣の旅館や飲食店さんからちょくちょくお声がけいただいて、配達することも少しはあります。でも、お客さんが欲しい時に、欲しい量を、欲しい値段で提供するのは難しくて、やっぱり仲介してくれる業者さんや八百屋さんがそこを調整してくれてこそのことだと思っています。

善友さん:そうですね。種を蒔かないといけない日に配達を頼まれても対応できないですし…。直売をするのであれば専属の人を雇う必要があると思います。今のところは考えていないかな。

一穂さん:さっきのJAや直販所、うちはやっていませんが個人向けの直販など、売り先に多様性があって、うまく組み合わせながら工夫してやっていけるのは良いことですよね。

— 農業のどんなところにやりがいを感じていますか。

善友さん:いくら論理的にやると言っても、天候など色んな要因があって、実際には思った通りにいかないことも多いので…自分がやったことの結果、美味しい野菜が収穫できて、その野菜が売れて、収入として手元に返って来るというところかなぁ。

一穂さん:ぶどうの場合は、1シーズンに何度かリピート注文をいただくこともあって、そういう時は喜んでいただけたんだなぁと、はっきりわかるので嬉しいですよね。

善友さん:野菜は出荷した後に食べている人の顔まではわからないですが、毎日、作物や天候を見ながら状況に応じて色々対応していくので、上手く育てることができたというところで成功というか、やりがいを感じます。僕は販売とか営業というのは苦手分野なので栽培の方に全力を注ぎたい。仲介に立って販売してくださる方の存在は大事です。

— 反対に辛いことはどんなことですか?

善友さん:一人でやっているから今のところあまり休みが取れなくて、忙しすぎることかな。今年は5月に体調を崩してしまって…

一穂さん:その時は私が代わりに作業できたので良かったんですけど。

善友さん:自営業なので、自分が休んでしまったらその分収入ゼロになってしまうから、ちゃんと休みを取って体調を管理できるようにしたい。今はそれが課題ですね。4年目を迎え、ようやく全体の作業を見渡せるようになったので、来年からは忙しい時期にはパートさんを雇って、ある程度の作業をお願いするということも考えています。
辛いとはいえ、自分で働く時間を決められるので、家族と過ごす時間を長めに取れてるのは良いですね。

一穂さん:本当に。育児もよく手伝ってくれているので助かっています。

農業人口は確実に減る、だけど希望は溢れている

— いち生産者として農業をめぐる状況はどう見えていますか?

善友さん:先にお話ししたように、現在の農業は70~80代の方が主体となっているので、この先10年で農業人口は大きく減るでしょうし、ぶどうなんかはだんだん農家の軒数が減って部会が存続できなくなると出荷もできなくなるのではという心配はしていますが…全体的に言うと、そんな劇的に変化することはないと思っています。農家も減るけど日本全体の人口も減るし、海外から安い野菜が入ってきて、それを買う人は買うだろうし、一方で安全でおいしい野菜が食べたいと国産のものを選ぶ人もいるだろうし、すぐに自分たちの作る野菜が売れなくなるというイメージはないです。

— 私の住んでいる京都市内だと生産者にこだわっている八百屋さんが増えてきていたり、スーパーの野菜売り場にもオーガニックのコーナーがあったりと有機栽培された野菜の需要は高まっていると感じます。

善友さん:そうですね。需要は高まっても国内の生産者はなかなか増えないので、海外で有機JASをとった野菜の輸入が増えていくでしょうね。

一穂さん:そう、だけど淡々と作るしかない。みんながみんな「農業しようぜ」みたいな感じでもないですしね。

— 私たちの親の世代から急激に農業離れをしていて、あまり農業に馴染みがないというか、なかなか新たに始めようという考えが頭に浮かばないのが正直なところではないでしょうか。

善友さん:そうですね。子ども達が農業体験などで楽しさを知って、将来農家になる子がでてきたらいいなとは思います。

一穂さん:100人に1人でも良いからね。私たちはいまここで子育てしてるけど、畑って本当にいいですよ。その畑で採れた野菜をここで食べる。いわゆるFarm to Tableですね。

畑で採れたての野菜を調理する
畑で採れたての野菜を調理する
この日の昼食から。自家製塩麹とキュウリの和え物
この日の昼食から。自家製塩麹とキュウリの和え物

— 食の英才教育みたい。ここで育ってどんな子に成長するのかも楽しみですね。

一穂さん:そうですね、楽しみです。でも親の私たちがこだわりすぎて、ファーストフードは一切食べさせない、みたいにはしたくないです。選ぶのは本人ですから。

— これからの夢や計画は?

善友さん:夢は…とりあえず、生活できるように収入を安定させること。安定したら家族と旅行に行くとか、ちょっと余裕のある生活をしたいですね、笑。
もし耕作放棄地になりそうな農地があれば、引き受けられそうなら引き受けて、荒れていく畑を減らしたいと思っています。シルバー人材センターなど、人にも頼みながら、自分の管理出来る範囲で…。

— シルバー人材など、上の世代の人と一緒にするということを考えているんですね。

善友さん:そうですね。若くてやる気のある人がいれば、ある程度作業を任せて頼みたいという気持ちはありますし、ゆくゆくは人材育成も必要ですよね。
一方で、身近にはシルバーの方が多くて、根気強くて元気で農作業にも慣れているシルバーさんには期待しています。90歳になる手前で新車の軽トラを買う農家さんがいたり、新しい品種のぶどうの木を植える80代の農家さんがいたり、笑。(注:ぶどうの木は実を収穫できるまで成長するのに5年かかる)
もう本当にお元気で、見習いたいです。

—–
【山善農園より】
9月中旬からピオーネ直送開始。最新情報は山善農園のFBページでお知らせします。
https://www.facebook.com/yamayoshinouen/

山善農園/藤久善友・一穂(農家)
■ 藤久善友
1980年生まれ。中間子。
20歳よりJAアルバイト~臨時職員。
2013年山善農園園主となる。
農業、映画、絵を描くことが好き。

■ 藤久一穂
1980年冬生まれ。末っ子。
18歳から染織を始める。32歳から農業に携わる。
犬、苔、地図、本、映画が好き。

Text & Photo:Masae YAMADA

page top