つくる人々 つくる人々

Interview1/2

河村健介・風呂敷デザイナー〈前編〉

Kensuke Kawamura | furoshiki designer

バッグになったり、ワインボトル入れになったり、テーブルクロスやピクニックシートにもなる四角い布「風呂敷」。今回の「つくる人々」は風呂敷をつくる人、山田繊維株式会社(京都)・開発部リーダーの河村健介さんにお話を伺う。
ミナペルホネン、KIGIといったトップデザイナーとのコラボレーションや希少な国産デニムを使った商品開発をはじめ、伝統的なプロダクトを現代の日常で受け入れられるものに再定義するための様々な取り組みを紹介する。
前編は河村さんの仕事観に影響を与えた海外での経験を中心に、山田繊維さんに入社されるまでの経緯をお話しいただいた。

kawamurasan3

ハードに働くことで身についた自信

— 河村さんは山田繊維さんに入社される前には海外でお仕事をされていたそうですね。これまでの経歴を教えていただけますか?

学生時代はプロダクトデザインを学んでいて、でも卒業してすぐにデザインの仕事で食べていくということに自信が持てず、1年くらいフリーターとしてビルの清掃をしていました。たまたま友人の紹介で始めたアルバイトですが、そこの給料が良くて、週4日しか働かなかったけど夜勤手当がついたりして結構良い暮らしができてたんですよね。
それでもだんだん、ずっとここにいるのは辛いと感じるようになってきて、やっぱりデザインを仕事にしようと就職先を探し、プラスチック成型などができるということで大阪にあるキャラクターグッズを制作する会社に入社しました。

1年目は商品の企画・デザイン、パッケージ、商品カタログなどデザイン全般に関わり、2年目からは商品全体の生産スケジュールやコストの管理、(デザインしたものは海外で製造されて入ってくるので)船便のスケジュール管理などもするようになって、約3年で商品企画から納品まで一通りのことを経験しました。そんな折にキャラクター家電を作るというプロジェクトが立ち上がったのでそれに参加し、合計5年半その会社に在籍していましたね。
その間は体を酷使してハードに働いたし一旦休憩しようと会社を辞めて、半年くらいは何もせずブラブラしてました。

— 経験を積んで一旦仕事を離れたんですね。それからはどうしたのですか?

家電を作っていた時は香港やフィリピンなどへ出張が度々ありました。現地では香港支店の方に通訳をしていただいていたんですが、みんなが英語で会話しているのに日本人だけ英語が喋れなくて会話に入れないということを体験したんです。それもあって、ともかく英語を学ぼうとワーキングホリデーでロンドンに行きました。それが29歳の時です。

無計画に飛び出した海外で、世界とつながる面白さを知る

今考えると変な話なんですけど、ワーキングホリデーのビザを取ってゲストハウスを一週間分予約して、後は何にも決めずに出国しました。
でも行ってみるとそういう風に家を探してる人がたくさんいて、そこで友達がたくさんできました。
結果的にちゃんと住む家も見つかって、勉強のためにも日本人の少ないエリアを選んだのですが、ブラジル、トルコ、カナダ、香港など本当に色んな国の人と一緒に過ごしました。

はじめの半年くらいは貯金を切り崩しながら語学学校に通うだけの日々を過ごしていたので、当然ながらお金がどんどんなくなっていく。そこでアルバイトに入ったのがヨーロッパのブランド品を仕入れて販売している日系の会社で、僕はeBay(世界最大のインターネットオークションサービス)のアシスタント業務をしていました。出勤したら注文をチェックして、商品をピッキング、梱包して発送するという仕事ですが、eBayは全世界が対象なので色んな国に商品を送るのは楽しかったです。
そのうち会社が運営している貿易業務や楽天ショップも手伝うようになってウェブのことも少しわかるようになり、そうこうしているうちに社員にならないかと誘われたんです。
帰国しても決まった仕事があるわけでもなかったし、そのお誘いを受けたのですが、いざイギリスの就労ビザを取る段階にすごく難関だということがわかって、就労ビザを取得しやすいパリで働くことになったんです。
パリには貿易をするために置かれた形ばかりの拠点があるだけで、当初は僕一人。知り合いも全くいなかったし、アパートをオフィスにしていて、起きるといきなりパソコンに向かうみたいな状況でした。就労ビザを取るとフランス語を学ばないといけないというプログラムがあったので、朝は学校に通って昼から仕事です。でも学校に行ったおかげで少し友達ができて、やっと生活らしくなったかな。

kawamurasan2

フランスにて既存の価値観を揺さぶられる

— はじめ知り合いもいないパリで一人だったとは驚きました。

僕も驚きましたよ(笑)。半年後にはイギリスから社員が1人加わり、そのうち3人になりと少しずつオフィスらしくなっていくのですが、その時は楽天ショップの業務と並行してフランスで化粧品を仕入れて日本の会社に売るという新規事業を立ち上げて、一から取り組みました。
仕入先を探して、運送屋と契約して、倉庫を借りて、貿易会社とやり取りして、お客さんを見つけて…という一連の流れを事業にするという良い経験をしました。会社からは多くの権限を与えてもらっていてやりやすかったんですが、2年以内に黒字にならなかったら事業を畳むと言われていたから、もうやるしかないと思って必死にやってました。
フランス語もあまりわかってなかったけど、ニースにある仕入先の会社の倉庫まで一人で行って検品なんかもよくしてましたね。向こうでは何でも言わないとやってもらえないし、遠慮せず、やってくれるまで何回でも言うという精神が身についたと思います。
とにかくやるしかないと思っていたので怖いものなしで、気づけば人見知りもしなくなりました。

— 仕事に対する感覚の違いによる苦労もありそうですね。

そうですね。フランス人は「仕事するために生きてるわけじゃないから」と仕事が残っていてもさっさと帰るみたいな感覚が普通にあって、そこで仕事が止まってしまうなど苦労することも多かったのですが、仕事より生活を主体にするという感覚は正しいと思いますし、僕も影響を受けている部分はあると思います。
僕が長時間働いているのを見た当時のフランス人のルームメイトから「効率が悪い」と凄く馬鹿にされたことがあります(笑)。日本人は長い時間がかかっても、できるまでやるのがプロという感覚がありますが、短い時間で自分が生活する分を稼ぐのが良いというフランス人の考え方もごもっともだと思いますね。

— そこで得た経験は現在の仕事にどう影響していますか?

今は商品開発のチームにいますが、やはり全体の流れを見ることが重要だと思っています。
商品を作るだけじゃなくて、それをどうやって売るかとか、その売り方で会社が潤うのかなども考えて商品を作っていますし、社内の色んな部署にも働きかけるようにしています。
自分が長い時間をかけてデザインを作り込むというよりは、全体を見て無理なところがないかとか、コンセプトがぶれていないかとか、そういうことに時間を使うことが多いです。
色んな仕事を経験してみるとデザインをするのが一番時間かかるんですよね。なかなかハードな仕事です。そこを絶対に自分がしないといけないという考えではなく、素晴らしいデザインができる人に任せて、会社としてちゃんと回る商品にするいうことを考えていますね。

— お伺いしてると全体を俯瞰で見る役割が向いていらっしゃるようですね。

どうも会社に入ると交渉ごとなどコミュニケーション能力に期待されることが多くて、本当に色々な仕事がまわってくるんですよね。それで気がついたら自然とそういうタイプになっていたという感じです。
個人的には一つのものに対して凄く突き詰めて毎回素晴らしい仕事をするという人に強く憧れますし、いつかヒット商品とか自分の納得する商品を生み出したいという願望もあるんですけどね。

日本でものづくりをしたいと思った理由

— パリでの生活から一転して風呂敷のメーカーに入社されたきっかけは何だったのですか?

先々のことを考えると一生パリで暮らすということはないと思って日本に帰ることにしたんですが、やっぱりものづくりの仕事がしたい、できれば国内生産のものが良いということがありました。
というのもキャラクターグッズの会社にいた時、生産していた中国の工場で目の当たりにした厳しい労働環境や、貧富の差を利用して安い商品を作るという構造に疑問を感じていて、フェアなトレードをしたいという思いがあったんですよね。
あとは日本の伝統的なものというのが昔から好きで興味があったし、むす美(山田繊維が運営する風呂敷専門メーカー)には当時からミナペルホネンとのコラボレーション商品があって、僕は20代の頃からミナのファンだったから、デザイナーの皆川明さんと一緒に仕事できる機会があるのであればしてみたいと思ったんです。
ミナはとても丁寧にものづくりをされいて、大量生産・大量消費でないところで勝負をし、セールもしないでものを売っているというのには凄く共感しますし、国内の小さな工場で生産することで工場の人も潤うし、作る側の人・使う側の人全体の幸せを考えておられるところも素敵ですね。

ミナペルホネンとのコラボレーションブランド「ちょうむすび」
ミナペルホネンとのコラボレーションブランド「ちょうむすび」より (c)山田繊維株式会社

— 入社されてからは実際に皆川さんと一緒にお仕事されました?

はい。これまでに仕事で何度かお会いしてお話させていただいていますが、考え方はいつもブレない、ブレないながらもこちらの言い分もちゃんと受け入れてくれて、凄く頭の回転の速い方という印象です。デザインのことはもちろんですが、数字の話もきちんとできる方で尊敬しています。

— 河村さんご自身はいま風呂敷のどんなところに魅力を感じておられますか?

使う対象としてよりも作る対象としての魅力が一番に出てきます。
ストールや洋服など布物が好きなので、布をデザインするということで心が弾みます。また和風のモチーフも昔から好きだったので、二つの点が合わさった風呂敷には自分が作る対象物としての魅力がたくさんあると思います。
この会社に入ってからふろしきを使うようになったんですが、出張の時に衣類を包んでまとめると便利ですし、荷物が多くなるとバッグにして使ったりもします。また、なにかギフトをする時にラッピングして風呂敷ごと差し上げると想像以上に喜んでもらえるので、プレゼントの際には出来るだけ風呂敷でラッピングするように心がけています。柄にも意味があったりするので、相手のことを考えて柄を選ぶのも楽しみの一つですね。
日々、風呂敷の持つパワーと可能性を感じながら生活していますよ。

河村健介(山田繊維株式会社・開発部リーダー)
2002年愛知産業大学 造形学部 産業デザイン学科 プロダクトデザインコース卒業
2003年キャラクター雑貨のメーカーに入社し、商品企画・デザイン・生産管理を担当。
その後、渡英。ロンドンの日系企業へ転職。貿易アシスタント、日本向け・海外向けのECサイト運営を担当。
パリのグループ会社に転籍してからは、コスメ商材、生活雑貨の輸出販売など新規事業の立ち上げと運営に携わる。
2014年山田繊維株式会社に入社。開発部にて新商品の企画・デザインを行う傍ら、海外顧客からの受注業務も担当している。
http://www.musubi-online.com/

Text & Photo:Masae YAMADA

page top