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Interview 2/2

下森明香・アクセサリーデザイナー〈後編〉

Asuka Shitamori | accessory designer

ファッションの最前線に立つ大人の女性達からの熱い視線を集めるアクセサリーブランド「tamas」ディレクター下森さんへのインタビュー後編。その人気の秘密や今後の展望を伺う。

厳しい世界で支持される理由

— ブランドが定着してきたことを実感する時はありますか。

最近は東京のNidi galleryというギャラリーで展示会をしていて、前半はバイヤーやプレスの方を対象に、後半は一般の方を対象に行っています。そこでたくさんの一般の方がtamasを知っていて、会場に足を運んでくださって、購入される姿を目の当たりにした時に実感しました。あと品川駅などでtamasを身につけている方にすれ違って「あっ!」てなったり。知ってくださっている人がいるんだなぁと感じるようになったのはつい最近。東京以外ではまだそういう実感はないので、まだまだこれからです。

— 我々がファッションに関心を持ち始めたティーンエイジャーだったのはかれこれ20年も前の話になりますが、下森さんから今のファッション業界の状況はどのように見えていますか。

全体的な話をすれば、個人のデザイナーが作った服なんてそう簡単には売れないだろうと思っています。例えすごく良いものであっても、今の若い人は買わないんじゃないでしょうか。アクセサリーも同じです。tamasのお客さんは私たちと同じか上の世代で、良いものにお金を出すということに、そんなに抵抗がない。でも、今の10代とか20代前半は物心ついた時からユニクロやH&Mがあって充分にことが足りている。なかなか厳しい世界です。tamasを始めた頃も既にそんな状況でしたが、たまたま、とてもラッキーだったんだと思っています。これから個人でブランドを立ち上げて成功するのは、もの凄く運が良くない限り、とても難しいのではないでしょうか。
この先のファッション業界で、安くて流行に乗っているもの以外で何が求められるかと言えば、高価でも品質が良く魅力的で、一生身につけられるものだけのように思います。

— tamasが支持される理由をご自身ではどう分析されていますか。

アクセサリーを作り始めた頃、美術をやっていたことは大きいと思っています。美術は本当に厳しい世界で、それで成功するなんて絶対にもう無理、笑。アクセサリーデザイナーで成功するよりもずっと難しいと思います。何をやったらいいかなんて本当にわからないし、そもそも誰も美術品を欲しいと思っていない、絶対的に需要がないんです。でも美術には、ここまでやっておかないと作品として発表もできないというレベルがあって、それは大学院まで行ってわかりました。
その延長で考えると、アクセサリーもそうでないと売れるわけがないと思って、そのレベルをクリアするようにしたから受け入れられたのではないかと思います。刺繍の裏側を革にしたり、着け心地は軽くないといけないとか、結構丈夫じゃないといけないとかをそういったことを一つ一つクリアしていきました。美術とアクセサリーは全然違うんですが、作り方としては結構重なる部分があります。絵画をやってたのですが、当時の先生が仰ってました「画家になれる素質があるということは完成を見極められるということだ」と。「絵なんて、継ぎ足し継ぎ足しでいくらでも描き続けられるから、止めどころがわからないと一生終わらない。それをここで終わり、という線引きをベストなところで出来るかどうかだ」って。私は絵ではその線引きがいまいち判らなかった。ずっと描き続けたっていいじゃないかと思っていました。けど、アクセサリーだったらすぐわかる。しかも絵と比べればスタートから完成までが早いですから、笑。向いていたんだと思う。
見た目のデザインに関しては、厳密にこれと言えないんですが、品があることや、粋であることは大切だと思っています。ジュエリーやアクセサリーにはやっぱり上品さが求められるので。個人的には世の中に差し出した時、美術のようにうーんとなるより、アクセサリーのようにすっと受け入れられる方がストレスがないです。

手にとって実感する、繊細で丁寧な仕事
手にとって実感する、繊細で丁寧な仕事
裏側にも様々な配慮がなされていた
裏側にも様々な配慮がなされている

大事にしないといけないことを見失わないこと

— 仕事で大切にしていることを教えてください。

大事にしないといけないことを見失わないようにしようというのが一番です。
私には、仕事と生活の境界線がほとんどないので、生活で何を大事にしてるかっていうことを忘れないようにすれば、仕事もおのずとそうなると思っていて。例えばtamasを始めた大きな理由に、外で働きたくない、朝ゆっくり寝ていたい、猫と一緒に暮らしたいということがあります、笑。この3つを崩したら元も子もない。一度、忙しすぎて朝ゆっくり寝られなくなった時があったんですが、自分の時間を失ってまでこの仕事を続けてたらバランスが崩れてしまって、それは作るものにも影響する。だから忘れないようにしたいです。
それから、今売れているから何でもいいでしょ、というような考え方は絶対にいけないと思ってます。常にちゃんと自信あるものを出し続けないと、ファッションの業界のスピードはもの凄く早いということを忘れないようにしています。

流行を追わず、社会の空気を感じながらつくる

— 作り続けていくためにはどんなことが必要でしょうか。

社会で何を求められているかということを考えることでしょうか。流行は追わないけど、最近こういう感じよね、という空気を無視しない。正直、アクセサリーなんて必要ですかねぇ、という価値観もあると思います。そんな中でも、絶対アクセサリーが必要なんだ、っていう人が購入してくれればいいと思っているから、じゃあその人たちはどういうのが欲しいのかっていうことを考えるし、反対に、(アクセサリーが)要らないっていう人は、なんで要らないのかを考えます。
私が作りたいって思うものだけを作っていてもしょうがないなと思っている、それが続けていくのに必要なことかな。だからもし本当に、アクセサリーは要らないよねそりゃあ、ってなったら、アクセサリーじゃなくてもいい。今のところはアクセサリーに可能性を感じていて、まだできることがあると思っているので作り続けます。ただ、作りたいものだけ作っているのは仕事じゃないって思う。

tamas 2015AW「GET BACK」より
tamas 2015AW「GET BACK」 ー tamasウェブサイトより

tamas10周年に向けて

— これからやってみたいことは何かありますか。

伝統工芸など技術を持った人とのコラボレーションには興味があって、すごいテンションが上がる気がします。それはアクセサリーに限らずやってみたい。
あと、いずれは海外でも販売したいと考えていますが、今年から来年にかけては再来年の10周年に向けて準備をする年にしようと思っています。今考えてるのは10周年にお店をオープンしたいということ。tamasのアクセサリーを軸にそこから派生したものや、私がセレクトした洋服などを扱いたいと思っています。というのも、街に行っても欲しいものが無いっていうことが多くて。東京まで行けば結構あるけど、近くにはなんで無いんだっていう想いからです。自分がセレクトしたものを実際に並べてみて、本当に受け入れられるのかを実験してみたい、それはきっとアクセサリー作りにも繋がることだと思うし、やってみたいなっていうぐらいですが。
あとは親孝行しないといけないよね、大人だし。自分を変えるためには周りも変えないといけなくて、だから今、多少の無理をしてでも従業員を雇って、人を育成しています。今一番欲しいのは子供。とはいえ授かりものなので、言ってるばっかりなんだけど、体力的にもそろそろ産んでおかないとと思っています。今も猫も3匹飼ってるし、植物も沢山育てていて、何かを育てるのはとても得意なんで…子育てをしたいですね。子供以上に育てがいのあることってないでしょ。

窓際には植物と猫たちが元気そうにしていた
窓際には植物と猫たちが元気そうにしていた
下森明香(アクセサリーデザイナー)
2006年京都造形芸術大学大学院修了。修了制作にて大学院長賞受賞。
2007年(株)INAXのアソシエーションアーティストとしてイタリア・ミラノサローネ正式出展。
後、絵画やインスタレーションを主に、国内外の企画展や個展にて作品発表。
2009年アクセサリーブランド、『tamas Accessories』 立ち上げ。
年2回のコレクション発表、多ブランドとのコラボレーションアクセサリーの制作。
(主なコラボレーションブランド:イッセイミヤケHaaT、mina perhonenなど)
2013年ブランド名を『tamas』に改名。以後、菊地敦己氏がADを監修。
2014年ニューヨークにて初海外展示会に参加。
現在、年2回個展にてコレクション発表。合わせて日本各地にて展示会を開催。
http://tamas-uca.com

Text & Photo:Masae YAMADA

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