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Column / 惑生探査記

そこら辺の春の息吹を血肉にする方法2

そこら辺の春の息吹を血肉にする方法2
近くに河原があれば大概見つかるシロツメクサ。あのクローバーの葉っぱの若いものは食べられる。ただ葉裏に黒い斑点の出ているものがよくあって、これが何なのか調べていないのでわからないけれど、葉裏を見てきれいなものを選ぶ方がいい。花も茎ごと天ぷらにすると食べられるらしいが、揚げ油のことを考えると億劫なのでしない。何より手軽にやれること。もしも四つ葉を見つけた日にはそれをみそ汁に浮かせれば、幸運汁になる。
シロツメクサは昔、プチプチの梱包材なんてなかった頃、オランダから運ばれてきたガラス製品の緩衝材として使われ、白い詰物の草、ということでこの名が付いたそう。シロツメクサよりもずっと小さい黄色い花をつけるコメツブツメクサというのもある。萩を小型にしたような丸葉で、うちの近くの空き地に群生地があって、たくさん摘んだ日は細切りのにんじんと合わせてナムルにしたりする。
採集時期や茹で方が悪かったのか、食べられるらしいのに全然食用に向いていると思えないものも何度か口にした。ハハコグサ、ナズナ、オオバコ。どれも噛み切れない草だった。以前ある店でたんぽぽサラダというのを食べてとてもおいしかったので真似してみたら、鬼のような苦さだった。
これまでに食べてみて一番おいしかったのは露草。露草は民家に植わっているのか自生しているのか、どっちなのかはっきりしてほしい微妙な位置に生えていることが多い。勝手に生えたものだという確信を持てない限り摘めないけれど、荒れ畑の脇に生えていたりしたら摘んでよしと思う。花の先と若い葉。青も紫も花色問わず食べられる。シャキシャキした葉と特に蕾がおいしい。花の付いた露草を茹でると水がうっすら青く染まる。この青い色は水に溶けやすく消えやすい性質で、友禅の下絵を描く染料に使われていたこともあるという。水にも光にも弱く変色しやすいので万葉集ではうつろいやすい恋の歌に歌われた花であったそう。みそ汁に不確かな恋の味が浮かぶ。そんな夜もある。

嵯峨実果子
1983年京都生まれ。詩人、文筆家。 「ミことば」で平成27年度第33回 世田谷文学賞 詩部門受賞。趣味は芳香植物の栽培と観察。 mikakosaga.tumblr.com

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