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Column/ 惑生探査記

お隣りの

otonarino
日曜日。台所にいたら隣の家のお風呂場から十数える声が聞こえてきた。十数えたらあがっていいというのは、今もやるのだなと思った。子供の体が湯船からあがる軽い音、そのあと大人の男がざばっとあがる音。夕方まだ6時前だから晩ご飯はお風呂のあと。
壁を隔てた台所ではココナッツミルクでかぼちゃを煮ていた。1日目はスープ、2日目にはかぼちゃがやや溶けてシチューになり、3日目飽きたらカレー粉を入れてタイカレーのようにして食いつなぐので鍋いっぱい。ナンプラーとライムリーフも合わさって部屋は南国のかおりになり、室温も心もち上がる。かぼちゃに竹ぐしを刺すとスっと通ったので火を止める。きっとこういう自分の好きなものを、好き勝手作って食べるのとは違った献立が隣の台所では用意されていて、日曜日6時のテレビといえば笑点。テレビがないので今もやっているのか知らないけれど、久々に耳の奥に残っているオープニングの曲を再生してみたら、実家の居間の細部も連れ立って起きてきた。千代紙が貼ってある牛乳パックのペン立てなどが。
暑くなくなって揚げ油を使うのが億劫ではなくなったから、今日はエビフライかも知れない。近所のスーパーで海老がお買い得だった。海老は爪ようじで背わたを抜かれ、丸まらないようお腹の方に切り込みを入れられて、小麦粉たまごパン粉のち180℃の油で泳がせる。レタスを敷いてマヨネーズを添えて彩りにプチトマト、手間のおかげでまっすぐなエビフライの整列をよそに子供は油ついでに揚げられた冷凍フライドポテトばかり食べて怒られる。でも揚げたてのフライドポテトに手が止まらないのはしょうがない。だからといって自分ひとりのために揚げ油を出す気には到底ならない。そういうときのためにマクドナルドは存在する。
かぼちゃのココナッツスープにドライパクチーを振る。生パクチーほどの香りはないけれど、乾燥した葉が湯気に起こされて、独特の青臭さがよみがえる。フライドポテトを食べてる子供にこれを嗅がせたら、虫のにおいすると言うに違いない。

嵯峨実果子
1983年京都生まれ。詩人、文筆家。 「ミことば」で平成27年度第33回 世田谷文学賞 詩部門受賞。趣味は芳香植物の栽培と観察。 mikakosaga.tumblr.com

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