寄稿 寄稿

Column/ 惑生探査記

発育

IMG_7640

近所にあるラブホテルの路地に面した植え込みの、ほふく性の植物は育ち過ぎ、なだれて歩道まで這い出してきている。その横にはこれもほふく性ではあるけれど、なだれるまではいっていない花盛りの松葉菊、稚児笹、投げやりに突き出したアロエが群れで生えている。
もちろんホテルの正面入り口はきれいに整えられていて、紫のクレマチスなんかが咲いているけれど、路地の方は一応植えられて、そこに植わっているものの、各々勝手に雨水を吸って思うまま生きているという感じになっている。その様子がなんだかいいので、いくつかある帰り道のなかでそこをよく通る。昼間に裏口から出てくる私よりずっと大人のカップル。黒い日傘の下からせっけんのにおいがした雲ひとつない昼下がり。
歩道になだれている植物の葉は平たいけれどやや多肉で、明るい黄緑色に白い縁取りがあり、赤い蕾を持っている。
ある日の夜、ホテルの路地を通りがかって、歩きながら素早くしゃがみ込み、歩道に這い出ている先端をもらってきた。これをいつ実行しようかと機を狙っていた。見られても別に誰にも怒られないだろうけれど、誰にも見られず遂行したかった。
多肉植物を挿し芽で増やすのは難しくない。通る度に気になりながらずっと名前がわからなかった。近くで見てちゃんとした名前を調べると、花蔓草という植物だった。南アフリカ原産で、ベビーサンローズとも呼ばれる。花言葉は愛、淡い恋心。このラブホテルから這い出してきた愛は根付くだろうか。

室温が上がると共に2階の部屋は温室のようになっていく。せっかくだから部屋のなかに木がほしいと思った。もう既に大きい木でなくてこれから育っていく木でいい。育っていくのを見ていたい。いろいろ迷ってフィカス・ティネケというゴムの木を買ってきた。斑入りの葉がきれいだった。葉に柄がはいったものに弱い。
まだ40㎝くらいしかないから木とも言えない。植木鉢が小さそうだったし、大きくなるよう植え替えて、根元に近いところの傷んだ葉を整理しようとハサミで葉を切ったら、切り口から白い液体が流れた。白いのはラテックスというゴムの原料。小さくてもゴムの木はゴムの木だった。立派な木と言えるような大きさになるには何年くらいかかるだろうか。

嵯峨実果子
1983年京都生まれ。詩人、文筆家。 「ミことば」で平成27年度第33回 世田谷文学賞 詩部門受賞。趣味は芳香植物の栽培と観察。 mikakosaga.tumblr.com

page top