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Column/ 惑生探査記

ありものケーキ

arimono

寒いと煮炊きに積極的になるのはできるだけ火の傍で暖をとりたいからで、同じようにオーブンも使いたくなる。オーブンと言っても買ったときからすでに中古の電子レンジのオーブン機能だけれど、それでパンも鶏もケーキもちゃんと焼ける。
久々にパウンド型を出してみたら、3日おきくらいに生地を型に流し込みたい衝動に駆られ、ここ最近台所に絶えずラップに包まれたケーキがある。使い込んだパウンド型は10年以上前、初めて一人暮らしをした頃手に入れたもので、気付けばテフロンもところどころ剥がれてそれなりの年季が入っている。
パウンドケーキはお菓子作り初心者でも失敗が少なく分量も覚えやすい。日持ちするし、その上2、3日置いた方がと美味しくなると知って以来、そのまま初心者の域に留まっている。パウンドケーキの基本は小麦粉、バター、砂糖、卵が同量。ネット上にはさまざまなアレンジレシピがあって、お菓子作りは計量が厳密と聞くけれど、パウンドケーキはその点かなり寛大なところもいい。バターを植物油に変えても、思いつきで入れてみたもので焼いても余程のことがなければケーキの形になる。
例えばお正月、三が日を過ぎて年の瀬に作ったきんとんをそろそろ消費したい頃に、きんとんを数個ほど潰して生地に混ぜ込み、ついでに黒豆も入れて焼いたら、しっとりした和風焼き菓子のようなものができあがった。頂きものの熟しきった柿ケーキ。ぬか漬けで余った炒りぬかを何かに使いたくて、全粒粉のように生地に20%ほど加え、炒りぬかケーキにしてみた。上に乗せるクランブルにもぬかを使ったら香ばしさが引き立ってなかなかいい。3本入りで1本使うあてのなかったにんじんをすりおろし、シナモン、ナツメグなどスパイスを効かせたキャロットケーキ。キャロットケーキの上には甘いクリームチーズが塗ってあるけれど、水を切って濃くしたヨーグルトに白みそを加えてそれらしきペーストにして塗った。そんなふうにケーキのために材料を揃えるというよりは、あるものでどうにかしてしまう。何もないと思っても生姜ひとかけらすりおろして焼けばジンジャーケーキ、そこに酒かすを混ぜ込むと甘酒ケーキ、インスタントコーヒーを入れるとコーヒーケーキになる。玉ねぎ、にんじんなど、冷蔵庫の残り野菜を切って炒めツナ缶を汁ごと入れてざっと炒めたら冷まし、卵と小麦粉、ベーキングパウダーを加えて焼くと甘くない塩味のケーキもできる。あるものでする、そんなやり方だから再現性は低い。どういう料理も素材の野菜なり肉なりに手を加えるけれど、パウンドケーキがおもしろいのは、粉や油や液体などの材料がブロック状のひとかたまりになるところで、食べられるかたまりを焼いて作るというのは、どこか原始的な感じがするとオーブンの回転を眺めながら思う。

嵯峨実果子
1983年京都生まれ。詩人、文筆家。 「ミことば」で平成27年度第33回 世田谷文学賞 詩部門受賞。趣味は芳香植物の栽培と観察。 mikakosaga.tumblr.com

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